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坂本龍一&吉永小百合が反戦訴え「みんなで絶対にダメだと言ってあらがえばよい状況になる」

吉永小百合さんが出演し、大ヒットした映画「キューポラのある街」(1962年製作)は、最後の方で朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を「地上の楽園」と賛美しつつ、彼女が扮する主人公の友人の朝鮮人家族が船に乗って北帰するシーンで終わっている。すぐに続編が作られ、日本に残った上記朝鮮人家族の日本人妻を北帰するよう吉永さんが扮する主人公が説得するシーンもあるという(戎崎は見ていない)。

在日朝鮮人の北朝鮮への帰還事業は、1989年まで続いており、家族とともに北朝鮮に渡った日本国籍者は数千人に登るという。その中にはこの映画を見て決意した方も多かったのではないだろうか。その大部分は、日本国籍者として迫害され大変苦労したという。北朝鮮は「地上の楽園」などではけっしてなかった。そのプロパガンダに乗った映画をよく調べもせずに製作した関係者の責任は重いと思う。

吉永さんは当時まだ未成年であり、この点についての責任を彼女に問うつもはない。しかし、すでに責任ある社会人となり、大女優として尊敬される立場になった今、このことについて口を噤んだまま、平和を語るのはいかがなものだろうか?

映画の中で彼女(が扮した主人公)が賛美した北朝鮮は、今この時、戦後約70年間少なくとも平和に暮らしてきた日本人に罵詈雑言を浴びせ、繰り返しミサイルを発射して核攻撃をすると脅している。傘下の人民をひどく搾取・迫害していることも、すでに多くの報告書で明らかになっている。平和を語るなら、このような平和の破壊者に、心ならずも協力してしまった自分を総括することから始めるのが筋ではないかと私は思う。

https://www.nikkansports.com/.../202203260001118.html...

SARS-CoV-2ウィルスのRNA修飾が宿主細胞の免疫反応を抑制している

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Li et al. (2021)によると、SARS-CoV-2ウィルスのゲノムは、RNA3'末端領域が強くN6-methylation of Adenosine (m6A)修飾を受けており、これによってウィルス感染による宿主細胞の免疫反応を回避している。

彼らは、宿主細胞のm6Aメチル基転移酵素であるMETLL3を減少させると、SARS-CoV-2ウィルスのRNAのm6A修飾が減少し、RIG-Iタンパク分子のRNA分子への結合が増加し、その下流の免疫回路と炎症反応遺伝子の発現を活発化させることを見出した。

この発見はウィルスゲノムのエピゲノミクスの変化が、ウィルスの感染性に大きな影響を与える可能性を示唆している。

Li, N et al. 2021, METTL3 regulates viral m6A modification and host cell innate immune responses during SARS-CoV-2 infection, Cell Reports, 35, 109091.

阿部詩さんおめでとう:今、女子柔道が面白い

阿部詩さんが女子柔道52kg級で金メダルをとった。彼女が決勝で一本を取った抑え込みは非常に特殊な入り方をしていた。この試合の前半でも狙っていた。一回目は、相手にまだ体力があったから逃げられたが、二回目は相手の体力が尽きて押し切れた。柔道、特に寝技はスタミナ勝負の面がある。

相手は、足取りや肩車に低く来て、そのまま寝技に引き込まれて時間をロスするなど苦手としていた選手だったようだ。その問題を克服するために寝技を磨き上げた。それにしても、オリンピックの檜舞台で難敵相手にこの技を決めるためには、ものすごい量の練習が必要だったはずだ。詩さんの「努力がやっと報われた」というコメントは千金の重みがある。おめでとう。

調べてみると、詩さんが使った抑え込み技は、舟久保遥香という女子選手が17歳(当時高校生!)のときに発明した技で、「船久保固め」といういう新技らしい。

この技の特徴は、まずその入り方にもある。高専柔道の「腹包み」の応用だ。まず相手の襟を掴む(立ち技の連続ですでに持っている場合が多い)、次に、もう一つの手で腹の向こう側の胴着の端を下から掴む。これらの準備の後、腹ばいの相手を後ろ方向に崩して、相手の体をまたぎ、反対側で肩の下に自分の頭をおいて、固めに移行する。

もう一つの特徴である固めの形態では、相手が胴着で縦横に縛られ、さらに体の動きの急所である首が押し上げられ、身動きできない(多分極まると息もできなくなる)。抑えの原理は縦四方固めに近いが、馬乗りにならないので、かえって始末が悪い。じたばたしても相手の体は自分の脇下あたりに位置しているので力が伝わらないのだ。最小の準備で入れる迅速さと決まったら絶対に逃げられない完全さを併せ持つ恐ろしい抑え技だ。

船久保さんの試合のビデオをみると、縦四方固めに移行するなど色々な変化があり極めて興味深い。船久保さんはまだ20歳。すさまじい逸材だ。
https://www.youtube.com/watch?v=eEWn4g0_KwU

日本の女子柔道は、寝技中心の高専柔道の技を取り込み独自の進化を遂げつつある。きわめて興味深い。

余談になるがに、阿部詩さんのお兄ちゃん一二三さんが金メダルを決めた技は、「袖つり込み大外刈り」ともいうべき技だ。教科書にはない。彼の独創だろう。彼の後輩がコメントしている。
https://togetter.com/li/1749986

メディアも、兄妹同時受賞を報道するだけでは能がないと思う。この二人がどれだけの努力して、この1年を過ごし、独創的な技を複数用意して、この結果にたどり着いたことをきちんと説明すればもっと面白い記事になると思う。

2021年7月26日

暖房の活発化によるコロナ感染症拡大を防げ

これから寒くなるにつれて暖房が活発化し、日本でもコロナ感染が再び広がる懸念があります。暖房で相対湿度が下がると、口鼻からの唾液滴が乾燥が急速に水分を失うため、一部のウィルスが活性を維持したまま、空気中に滞留し、感染につながる可能性があります。

このような「空気感染」に対する対策は以下の4つが考えられます。

1)換気する。
2)常時マスクを着用する。
3)室内の相対湿度を50%以上に保つ。
4)空気清浄機でウィルスを不活性化する。

私の部屋で実験していますが、電気屋さんで買えるような加湿器では、部屋の湿度数%以上上げることはできないようです。そうすると、残りの1,2,4に心がけることになります。

セントラルヒーティングで暖房している大きなビルが問題です。窓を開けるなど積極的な換気を心がけるべきです。

また、オフィスなどでは、暖房を控えめ(結果として、部屋の相対湿度が高めになる)にして、マスクの装着を引き続き奨励すべきです。

根本的な対策は最後の4かもしれません。乾燥ウィルス粒子が、室内に蓄積することが問題なので、それをフィルターで取り去るか、紫外線や光触媒で完全に不活性化するわけです。

加湿器・空気清浄機の普及率は日本はダントツに高い(花粉症のおかげ)ので、日本の第6波は、諸外国に比べて弱いかもしれません。

ウィルスと相対湿度:この冬をどう過ごすか

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呼吸器疾患を起こす病原体(細菌やウィルス)の活性維持能力(viability)は、環境の相対湿度に強く依存します。上図は横軸に相対湿度、縦軸に活性維持能力を取った模式的な図です。細菌は、相対湿度が下がるにつれて、活性維持能力が落ちてきますが、ウィルスは、相対湿度が50-80%のところに活性維持能力の極小があり、そこから相対湿度が増えても、減っても活性維持能力が増加することが知られています。ただし、ウィルスによってその特性曲線の形かなり違うらしいことがわかっています。

呼吸系疾患の病原体は、感染者の口から会話、発声、咳、くしゃみなどの際に排出される唾液滴の中に入っています。それが活性を保ったまま新しい宿主の呼吸器にたどり着くと感染が起こります。この唾液の水滴は空気中で水分を失いますが、その速度は周りの相対湿度で決まります。相対湿度が100%に近いと、唾液滴の水分が長時間保たれるために、その中の病原体が長期にわたって活性を維持します。細菌の場合は、水分がなくなると唾液滴内の塩分濃度などが急上昇して、死んでしまうので相対湿度が低くなると一方的に活性維持能力が低下します。これはよくわかります。

ウィルスも100%から相対湿度が減ると一旦は活性維持能力が減ります。これは上記と同じです。しかし謎なのは、相対湿度が50%を切ると、再び活性維持能力が増加することです。多分、瞬間的に乾燥してしまうと、それなりに安定化するウィルス粒子が少数ながら存在するのでしょう。これらが新しい宿主の呼吸器に入って水を得ると、活性を復活するのではないでしょうか?このような乾燥安定化ウィルス粒子が、相対湿度が低いところでの活性維持能力の増加に寄与しているのかもしれません。

Covid-19ウィルスの相対湿度特性は、まだよくわかっていません。今後これをきちんと測定する必要があります。変異株によっても違いがある可能性があります。少なくともデルタ株は、湿度100%に近い環境に適応した感染経路を持っているようです。冬になって、より乾燥した環境にデルタ株がどう反応するかを注視する必要があります。

また、ウィルスの感染性は気温にも強く相関します。気温が低いと我々の呼吸器の表面の粘膜の粘性が上がって、異物の排出による防御機構が崩壊します。気温は15℃程度に保つのが防御機構の維持には重要です。

これらの情報をもとに、私は以下のように行動したいと考えています。

1)機会があれば早期に三回目のワクチン接種を受ける。

2)外気温が下がれば暖房を使い室温が15℃以下にならないように気を付ける。ただし、湿度に注意し、相対湿度が60%を切らないようにする。

3)エアコンの気流は控えめに設定する。また、エアコンからの暖風(相対湿度が非常に低いと想定される)が体に直接当たらないような工夫をする。

4)複数人が一つの部屋に滞在するときには、各自マスクを必ず着用する。また、適切な換気を心掛ける。さらに、ウレタンマスクは使わない。最後に、ウレタンマスクを装着した人のそばには近づかない。

5)外出時は、マスクを常時つけて、呼吸器の保温と保湿に務める。また、ビタミンCを多めに取り。呼吸器の防御機能維持に努める。

よく考えると、大部分は日本人が昔からやってきた冬の風邪対策そのままです。今年の冬もこれをより入念に行えば良いということです。

ではお大事に。

布マスクの感染防止能力

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理研の同僚の和田智之さんのチームのすばらしい研究成果を報告します。

彼らはレーザーを使ってマスクを透過するマイクロ飛沫の数を測定しました。その結果、ウレタンマスクは、マスクなしの場合とほとんど変わらない場合がある一方で、不織布マスク、布マスクはサージカルマスク(N95やKF94)とほぼ同等のフィルター性能を持つ(ほとんど飛沫が透過しない)ことが確認されました。水分を多く含んだ飛沫のフィルター性能には、マスク素材の吸湿性が大きな影響を与えるということでしょう。冷感素材は、一般に吸湿性が低いものが多いので注意が必要です。

別途、富岳を使ったコンピュータシミュレーションで、布マスクのフィルター性能が、不織布マスクに対してかなり劣るとの結果が発表されてマスコミ等で流布されております。ただし、この差はコンピュータシミュレーションで用いた飛沫の布地への付着確率の値が不適当であったためと思われます。今回の和田さんらの研究結果を踏まえると、上記のシミュレーション結果は再検討が必要であることが明らかになりました。

このデータを見ると、日本人の感染率が低い理由(ファクターX)は、布マスク、不織布マスクを外出の際は律儀に装着してきたことであるように思われます。アジアの他の国でファクターXが比較的顕著ではないのは、ウレタンマスク装着の割合が高いせいかもしれません(誰かデータ持っていたら教えてください)。

振り返ると、アベノマスク配布事業は誠に的を射た政策でした。あのおかげで、国民全員に「マスクをしろ」という政府のメッセージが浸透しました。また、不織布マスクの品薄も解消し、国民のほとんどがマスクを装着し続けられる環境を醸成しました。

デルタ株の感染とエアコン

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日本では9月に入りデルタ株の割合が減少しました(左)。その理由に関しては、専門家も頭をひねっているようです。その議論をしていた時に、和田さんが、「もしかしたらエアコンの稼働と関係があるかもしれない」と言い始めました。

そこで、戎崎は東京の2021年の5月-9月の気温の変化を調べてみました(右:気象庁の公開データ)。2021年の6月上旬にセ氏30度を超える真夏日が始まりました。このころ、エアコンの冷房を入れ始めたと思います。その後一旦、最高気温が30度を切るようになります。関東の梅雨入りが6月14日ごろということですのでそれに対応していると思います。この頃から湿度が上がって不快指数が高くなったので、気温が低めでも冷房を使い続けたと思います。そして7月中旬に梅雨明けし、真夏日が続くようになりました。

一方、9月始めに台風が襲来し、最高気温が一気にセ氏20度程度まで下がります。台風一過後、最高気温が25度超に戻りますが、セ氏30度超に慣れた我々は、セ氏25度でもあまり暑いとは感じないで冷房はあまり使わなくなったと思います。

これらを振り返ってみますと、右図で灰色で塗った期間が、冷房が盛んに使われた時期と考えられます。

一方、デルタ株の割合は、6月上旬後半(6月7日-13日)に急激に立ち上がり、9月になると急激に減少に転じます(左図)。このデルタ株の活動期は、上に述べた冷房期(灰色で塗った時期)とよく一致しています。また、8月中旬に、台風の来襲で気温が数日下がったことがありました。デルタ株も割合もそれに対応する時期少しだけ減少しているようにも見えます。

では、冷房がなぜデルタ株の感染を助けるのでしょうか?和田さんと私が考えた作業仮説は以下のようなものです。まず、室温がセ氏30度、エアコンが吐き出す冷風がセ氏20度だったとしましょう。セ氏30度における飽和蒸気圧は20度におけるそれの約2倍です。したがって、相対湿度70%のセ氏30度の空気をそのままセ氏20度まで冷却すると、容易に露点に達します。つまりエアコンからの冷風は相対湿度が100%にかなり近いことが予想されます。

一方、感染力が高いデルタ株の感染は、1ミクロン以下の小さなアエロゾルを通して起こります。このようなアエロゾルは、エアコンからの冷風のような湿度100%に近い空気の中では長期にわたって生き残り、部屋の中で瀰漫すると考えられます。これが、デルタ株の感染を助けた可能性があります。相対湿度が低いと、小さなアエロゾルは、早々に水分を失って消えてしまいます。

デルタ株は、インドで発生したと聞いています。かの国では非常に暑いので定常的にエアコンを稼働させているに違いありません。そのような環境で進化したデルタ株は、エアコンからの冷風に助けられて感染を繰り返してきた可能性があります。

和田さんは、この作業仮説を確認するための実験を企画しようと考えています。来年の6月ごろまでにデルタ株に対する有効な対策を策定し、実行に移しておかなければなりません。

また、冬になると再びエアコンがフル稼働を始めます。今度は、セ氏10度の空気をセ氏20度に温めるわけなので、相対湿度が非常に低い暖風がエアコンから噴き出てくるわけです。この時コロナウィルスの感染がどうなるのかは心配なところです。それに関する考察は、稿を改めて。

東京2020オリンピック・パラリンピック開幕に思う

東京2020オリンピック・パラリンピックが始まった。ここまで来れば、大会は半分成功していると思う。1年の延期を経て、色々な議論がある中で開催にこぎつけた関係諸兄の勇気と努力に敬意を表したい。

日本ではワクチン接種の進展などにより、新型コロナ感染症による死者の増加が抑制されていることを考えると、観客を入れての開催もあり得るとは思うが、世界ではまだ憂慮する事態が続いている国・地域もある。不測の事態を考えると無観客開催は無難な処置だったと思う。現状の日本の技術をもってすれば、選手と関係者のみであれば、どのような事態でも対応できる。しかし、その上10倍する人数で自由に市内を動き回る観客までが関われば、その制御は困難を極めることは想像に難くない。

開会式を見て、日本の新しいメッセージがないと批判めいたことを口にする人がいる。冗談ではない。このような状況下で敢えて、オリンピック・パラリンピックを開催する行為がそのまま強いメッセージを放っている。開会式では、困難を乗り越えて集ってくれた選手諸君に、質素だが心のこもった歓迎の志を伝えればいい。それは果たされたと思う。

このオリンピック・パラリンピックで日本が発したメッセージは、「かつてのようにスポーツを自由に楽しめるようにもうすぐなるぞ。もう少しの我慢だ。」ということだ。これこそ、全世界の人々が待っているものだ。米英日では、そろそろ実現しつつあるが、世界全体ではまだまだだ。自国の選手が参加した大会でそれが実現しているのを見ることは、どんなに励みになることか。黙々と円滑な運営を心掛けておればよいのだ。円滑な運営こそが求められているもので、その達成そのものが強いメッセージを含んでいる。

選手諸君はこの1年間、社会全体が新型コロナ感染症で揺れる中、自分の体調を維持してここまで来るのに大変な苦労をしたと思う。その努力に敬意を表したい。彼らはすでに勝者である。後は、本番で全力を尽くし、磨いてきた技と力と精神力を見せてほしい。そして結果はどうあれ、お互いの健闘を称えあってほしい。

我々はそれをただ愛でておれば幸せだ。

新型コロナ、再拡大を警戒 総合力で複数手段を用意し「完封」を

日本においては、新型コロナウイルス感染の第3波が峠を越えた。ワクチン接種も開始された。ただし、国民の大部分が接種を終わるまでまだ少なくとも半年はかかりそうだ。2021年度前半は、通常の手法で感染の再拡大を防ぎつつ経済活動を速やかに復旧させることが重要課題である。
 まず、無症状のままウイルスの排出がはじまることが多い新型コロナ感染症の特異な性質に注意しよう。したがって、健康に異常がなくてもマスクの着用と頻繁な手洗いを継続しよう。特にマスクが重要だ。保因者の口や鼻から飛散するウイルスを含んだ唾液や鼻汁の飛散を防ぎ、受け手の口鼻周辺への直接付着を防ぐ。
 また、喉鼻への保温・保湿効果を持つマスクの着用は、本来人が持つ呼吸器感染症への防御システムの維持という意味でも重要だ。人の気道の皮膚は本来、粘膜と繊毛運動の異物排除機能で保護されている。
 ところが、低温では繊毛運動が鈍り、乾燥すると粘膜が固まってこの機能が失われてしまう。このことが、冬季の低温乾燥条件で、呼吸器感染症の蔓延(まんえん)が起こりやすい原因とされている。
 次に、マスク着用が難しい飲食時の対策だ。乾燥している室内では、会話などで口から飛散する比較的大きな唾液滴(数十ミクロン以上)を通して感染が起こる。空気中をほぼ弾道飛行するこれらの唾液滴は、保因者との間に障害物を置くことで有効に防げる。食堂や居酒屋などでは、客同士の間に透明な衝立を設置することを考えよう。そのような対策を取った店に関しては、通常営業を奨励すべきだと考える。
 乾燥した環境では、直径が10ミクロンよりも小さな液滴は急速に水を失うので、ウイルス表面のSたんぱくが変性して早期に活性を失う可能性が高い。ただし、トイレ、風呂場、シャワー室など常に相対湿度が高い場所では、壁や便器、ドアノブなどに付着したウイルスが活性を保ち続ける可能性がある。それらを触った手指で鼻口眼周辺を触れば感染する。
 一般に、ウイルスの活性は紫外線照射で失われることが分かっている。トイレや風呂場などに紫外線を交ぜた照明を使ったり、壁面などに光触媒塗料を塗ったりしてウイルスの活性を早期に奪う手法が有効である。
 さらに、長時間「3密」状態を強いられる飛行機や列車での移動に関しては、乗客に搭乗直前の核酸検査を義務付けることを考えよう。最近、数時間以内に結果を知らせる核酸検査サービスが開始された。ただし、結果通知までの時間を短縮して1時間以下にすること、一時に大量の件数をさばくことに関しては、まだ課題があると聞いている。ぜひそれらを克服して早期に実現してほしい。ロックコンサートやスポーツイベント、そして接待を伴う飲食店なども、直前に関係者全員の核酸検査を実施してコロナフリーな環境を実現し、心置きなく楽しめるように工夫しよう。
 このように、新型コロナの感染拡大を防ぐ技術的な準備が整いつつある。現状のワクチンでは効果がない変異型の出現も心配されており、ワクチン接種のみでは足をすくわれるかもしれない。これからは、場面に応じさまざまな対抗手段を用意して、社会に広めて早期に実効を上げる勝負となる。その実現には、科学者や技術者だけでなく、実業家、政策担当者らを含んだ総合的な組織力が要求される。
 これまで日本は、比較的軽症でここまできた。このまま最後まで気を緩めずに完封し、世界に範を示そうではないか。

2021年3月1日 フジサンケイビジネスアイ
許可を得て転載

紫外線によるSARS-CoV-2ウィルスの不活性化

ファイル 304-1.pdf

2020年9月3日アクセレレーション技術発表討論会における戎崎の講演資料。

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