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人類の持久走力:Endurance Running Capability of Genus Homo

人類の特徴として大きな脳を持ち、道具を作り、複雑な認識ができることが強調されているが、運動能力をみると、強さ、パワー、器用さ、速さのどれを見ても他の動物(親類筋にあたるアフリカ大型霊長類を含めて)見劣りがする。人類は、弱く、遅く、不器用な生物である。典型的な現代人よりかなり軽いチンパンジーでさえ、より大きな力を出せ、より速く走り、そして器用に移動する。素手でチンパンジーと戦ったら、ヒトは一人も勝ち残れないだろう。

しかし、Lieberman et al (2009)によると、ヒトはパワーや強さでは他の動物に負けるが、持久力、特に有酸素能力に関しては、驚くべき能力を持っている。この能力は、有酸素代謝を必要とする5km以上の持久走で特に顕著である。ヒトは持久走スピードは2.3-6.5m/sの範囲にある。後者は、世界記録保持者レベルの運動選手のものであるが、特別な訓練をしないアマチュアでも多くのものが5m/sのスピードを維持できる。このスピードは、走ることに特化した四足動物に比べてもかなり速い。人間と同じくらいの体重を持つイヌは速足(trott)・全速走(galopp)遷移速度は3.8 m/sであり、理想的な条件のもとで7.8 m/sの全速力を10-15分しか維持できない。イヌと他の四足走獣は、長距離gallopできない、特に暑いときには。したがって、大型の犬は1-2キロメートルでは、人間に走り勝てるが、それ以上の距離では、逆に人間がイヌよりも速い。ウマは、最大gallop速度7.8 m/sを持ち、10km走ではヒトより速い。しかし、10-15分以上ではgallop速度は劇的に減少する。長距離にわたる繰り返し走では、速度は5.8 m/sになり、1日に約20kmしか走れない。それ以上走ると、回復不可能な損傷を筋肉骨格系に受けてしまう。したがって、人間の持久走能力は極めて印象的である。

人間の持久走能力は、走行距離においても他の四足走獣に比べて引けを取らない。アマチュアでも10kmを走るのは難しくないし、ずっと長い距離、たとえばマラソンやウルトラマラソンを走る能力を持っている。このような能力を持っている動物は、オオカミ、狩猟犬、ハイエナなどで、これらは日常的に一日に10-20kmを走る。これらはみな、社会的肉食獣であり、彼らの狩りや死肉漁り戦略にとって走力は重要である。ヒトと同様にこれらの走獣は10-20kmを超えて走ることができるが、それは人間によって強制されたときのみであり、その走りは速足歩きに、ハイエナのような野獣の場合は、緩やかな駆け足(canter)に限られている。ある種のイヌは涼しい環境で100km走ることを強制できるが、これらは特別で、多くの場合、回復不可能な損傷を被る。

ヒトと同程度に長距離を走る哺乳類はいるが、暑い条件下で高体温症にならずに長距離を走ることができない。これは、哺乳類の二つの要素が関係している。まず、発熱は、筋肉収縮の強さと頻度に比例して増加する。人間では、走るときは、歩くときに比べて10倍の熱を生産し、チーターは熱の発生で1kmで疾走をやめなければならないほどである。殆どの哺乳類が冷却に用いている浅息呼吸は全力疾走(gallop)時には、問題がある。これは、浅い呼吸を通常の10倍の呼吸の割合で行うために、上部咽頭の死領域ができて、肺におけるガス交換が不可能だからだ。したがって、浅息呼吸を行う哺乳類は、gallop時の酸素呼吸要求を満たすことができないし、gallop時に起こる呼吸と運動の1:1連結は、生体力学的に浅息呼吸と相いれない。

しかし、ヒトは暑くて乾燥した条件下での疾走時にかなりの放熱を行う手段を発達させている。まず、ヒトは歩行と呼吸の結合がない。また、エクリン汗腺を発達させ、毛皮を持っていない。発汗は有効な冷却手段だが、空気と水分を保持し対流を抑える毛皮があると効率が悪い。したがって、他の熱帯の走行獣、ハイエナや狩猟犬は、夜もしくは夜明けか黄昏時にしか長く走れない。ヒトだけが、昼間の暑いさなかに持久走ができる。ただし、発汗のために、良い条件の運動選手において1-2l/hの水が必要である。

持久走力の獲得は、人類とチンパンジーとの分岐の後に起こったと考えられる。弓矢や投槍器をまだ発明しておらず、槍先の石器さえ持たない旧石器人類がどのように食物を得ていたのか、その中で持久走力はどのように役立っていたのだろうか?その一つの答えが持久狩猟かもしれない。人間の持久走力を生かし、獲物をしつこく追いかけて高体温症を誘発し、体力の消耗を待ってしとめるわけだ。持久狩猟は、現代の人間の熱帯で乾燥環境において、広く見られる。

Lieberman, D. E. et al. 2009, Brains, Brawn, and the Evolution of Human Endurance Running Capabilities, in The First Humans: Origin and Early Evolution of the Genus Homo, F.E. Grine et al. (eds), Vertebrate Paleobiology and Paleoanthropology, Springer Science+Business Media B.V.
2009.