記事一覧

サハロフ回想録(上)アンドレイ・サハロフ著

ロシア水爆の父の回想録。上巻は生い立ちから、大学、大学院での研究生活。水爆開発への参加、その成功とアカデミー会員への特進などが語られる。私としては、論文や教科書でおなじみのロシアの物理学者が、生身の人間として登場し、そのエピソードが語られているのが興味深かった。

ゼルドビッチ相似解やスニアエフ・ゼルドビッチ効果で天文学者には有名なゼルドビッチ博士は、恋多き男で多くの女性と関係を持ち、子供をなしたそうだ。著者との関係は複雑で、多くの共同研究を共にした「親友」ではあるが、著者の反体制化に応じて彼との関係も変化したという。ゼルドビッチの相似解が、水爆のモデル化の努力から生まれたこともよくわかった。

ランダウ・ポメランチューク・ミグダル(LPM)効果で有名なポメランチューク博士とミグダル博士は著者の学位論文の試問担当者だったが、ミグダル博士が当時車を買ったばかりでその運転の練習に夢中で、なかなか審査書類を書いてくれなくて困ったそうだ。ポメランチューク博士の方は学位審査の当日の朝に自宅でやっと捕まえて、審査書類を書いてもらったとか。博士候補者は何処でもどの時代でも大変である。博士の審査に哲学(マルクス・スターリン主義)の審査があり、著者がその試問に落ちて、学位授与が半年遅れたのもこの当時のソビエト連邦ならではのエピソードだろう。

水爆開発の功績で、著者はアカデミー正会員になり、三度の社会主義労働英雄受賞を受賞するなど、学者としての地位をのぼりつめてゆく。一方で、科学アカデミーにおけるルイセンコ学派との対決、核実験の禁止に関するフルシュチョフ首相との衝突などを通じて、次第に政治的な発言を強めてゆく。同時に、宇宙論への興味を深め、バリオン数生成の理論を作っている。