記事一覧

染色体における二回の遺伝子獲得バーストと、それに伴う哺乳類進化におけるオス偏向遺伝子の染色体間での再分配 Chromosomal Redistribution of Male-Biased Genes in Mammalian Evolution with Two Bursts of Gene Gain on the X Chromosome

ファイル 258-1.jpg

Zhang et al. 2010は、ヒトとマウスの持つ、個々のタンパク質をコードした遺伝子とマイクロRNA遺伝子の獲得年代を脊椎動物の系統樹解析により決定した。その結果、X染色体の獲得遺伝子数が、二つのピークを示すことをあきからにした。

一回目のピークは、1.3億年から0.9億年にかけての真獣族と有袋族の分岐の後(分岐5,6,7)にある。これは、真獣族にX染色体が出現し、性に関連した機能の進化の加速に伴って、多くの遺伝子が獲得されたという仮説に一致する。二回目のピークは0.5億年以内のできごとで、霊長類においてはチンパンジー・人類の分岐(分岐12)、齧歯類においては、マウスとラットの分岐(分岐11)以降に生じたものである。
5千万年以内に獲得されたオス偏向遺伝子(オスで発現している遺伝子)は、X染色体に集中している。これは、劣性でかつオスに有利に働く遺伝子が、選択的にX染色体に固定されたためのかもしれない。このような傾向は、より古い分岐で現れた遺伝子では減少する。3億年以前に獲得されたオス偏向遺伝子は、常染色体に多い。また、分岐5においては、メス偏向遺伝子の割合が、X染色体で常染色体に比べて大きい(39%)。一方、分岐6と7では常染色体、X染色体ともに15%である。これは、新しく獲得されたX染色体にあった遺伝子が強く正の選択を受け、オス偏向およびメス偏向の両方の遺伝子が過剰に獲得されたことを示している。

遺伝子獲得率の一回目のピーク(分岐5、6、7、)は、哺乳類の共通祖先において、真獣族と有袋族の分岐前にX染色体が出現したことを示している。初期のX染色体は、多くの遺伝子を獲得した結果、大きく変化しているはずである。もしこの説が正しいとすると、X染色体にもともとあった古い遺伝子が、新しく獲得された遺伝子と同様に多くの変異を受けている可能性がある。実際に調べてみると、分岐5以後では同義・非同義変異比が有意に高いが、以後はそうではないことが分かった。これは、分岐5以前にはこれが性染色体ではなかったことを示唆している。

これまで述べてきたように、X染色体への集中が、より古い分岐時に獲得されたオス偏向遺伝子では減少する。マウスの精子形成における発現データを比べ、獲得年代が違う遺伝子の発現を比較し、どのような力がこの非男性化過程を駆動しているのか調べてみた。その結果、古い遺伝子は、減数分裂期以前(精原細胞)で発現しているが、パテキン期から減数分裂後期(精子細胞)には抑制されている。一方、新しい遺伝子は減数分裂期以前のみならず、減数分裂後に至っても抑制されていない。このことは、古い遺伝子がMSCI(meiotic sex chromosome inactivation:減数分裂性染色体抑制)で抑制されるのに対し、X染色体上の新しい遺伝子は、発現が抑制されないことを示している。オス偏向遺伝子は、最終的には、MSCIにより抑制されるX染色体から、それがない常染色体に移る。その結果、X染色体には、メス偏向性遺伝子が残ると考えられる。一方で、X染色体上に存在するオス偏向性遺伝子は、MSCIから逃れた遺伝子と考えられる。

メス偏向遺伝子は、オス変更遺伝子とは対照的な分布を示す。つまり、古いX染色体遺伝子は、メス偏向遺伝子がより多い。常染色体上の若い遺伝子は、卵巣でより強く発現する。さらに、X染色体上の若い遺伝子も卵巣で発現する。このような発現の傾向は脳を除いて、肝臓や肺などでも観察される。一方、脳の発現パターンは独特である。つまり、分岐7より後に獲得された若い遺伝子は、常染色体に比較的多いが、古い遺伝子(分岐7以前)はX染色体により多く存在する。これはX染色体に脳発現遺伝子が多いという以前の知見と一致している。

これまで述べてきたようなX染色体の特徴は、miRNAにおいても見られるため、タンパク質をコードした遺伝子だけの特徴ではないことがわかる。

まとめると、X染色体はシーケンスの面からも発現の面からも、真獣族と有袋族の分岐の直後から、大きな進化が起こっていることがわかる。

1)Zhang, Y.E., 2010, Chromosomal Redistribution of Male-Biased Genes in Mammalian Evolution with Two Bursts of Gene Gain on the X Chromosome, PLos Biology, 8, e1000494.
(Khill et al. 2004)。

(一部、奈良先端大、大島氏の協力を得た)