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津波地震の正体 大規模な地滑りとの共通性

 東北日本太平洋岸の東約200キロ沖にほぼ南北に延びる日本海溝は、最深部の水深が8020メートルであり、地球で最も低い場所の一つである。その底から日本列島を見上げるとその高さはヒマラヤ山脈に匹敵する。ここでは、太平洋プレートが地球深部に向かって沈み込んでいる。その陸側斜面では、その沈み込み運動に引きずられて10度を超える急斜面が形成されている。

 その詳細な地形図には、いたるところに地滑り跡らしい巨大な崖がみられる。その斜面の崩壊で、巨大な岩石塊を含む土砂が、海溝最深部に流れ込んでいることが想像される。

 また、この海溝陸側斜面近くでは巨大な地震が繰り返し起こっている。最近では、1968年十勝沖地震、78年宮城県沖地震、94年三陸はるか沖地震、2011年東北地方太平洋沖地震などがその例である。これらのうち一部は、大規模な津波を伴っている。

 例えば、東北地方太平洋沖地震に伴う津波が東北地方太平洋岸に大きな被害をもたらした。地震に比べて津波が強い地震があることは、1972年に指摘され、「津波地震」と呼ばれている。1896年明治三陸地震、1946年アリューシャン地震、2010年スマトラ沖地震がその典型例とされている。津波を励起しやすい「ゆっくりした地殻変動」のためとされているが、それを作り出す物理機構は、よく分かっていない。

 一方、「ゆっくりした地殻変動」を伴う地震のほとんどが海溝陸側斜面に震央を持つことが1980年に指摘されている。そこでは、上記に述べたように地滑り頻発地帯であり、強い地震動に見舞われれば、大規模な地滑りが起こらないはずがない。このように思考をたどると、上記の「ゆっくりした地殻変動」の正体は、地震動による液状化とそれによって2次的に引き起こされた斜面崩壊、つまり地滑りではないかという推論が浮上してくる。まず、「ゆっくりした地殻変動」の変動時間は100~200秒であり、海溝斜面における地滑りの時間尺度と整合する。次に、地滑りでも地震波が作られる。さらに、地震波解析のみでは低角な断層運動と地滑り運動を区別することは一般に難しい。実際に物質移動の現場を見ても両者の区別はそう簡単ではない。その上、100キロ四方の面積の表面が動くような大規模な地滑りが生み出す重力エネルギーやモーメントは、マグニチュード9の海溝型巨大地震のそれとおおむね一致する。

 日本列島の太平洋沿岸には、海溝堆積体が海岸線に露出している。そこは、断層運動が卓越しているところ、堆積岩中に噴砂の跡があって液状化が顕著なところ、ビルほどの大きさ(数十メートル)の岩塊が乱雑に積み重なった激しい乱流を伴った地滑りの跡とみられるところなどが入り交じった複雑な様相を示し、その特異な姿からオリストストロームと呼ばれている。

 海溝陸側斜面の急傾斜地で地震が起これば、断層運動と地震動により斜面を構成する地盤で液状化が進行し、傾斜に従って大規模な地滑りが発生するに違いない。それは場所により、激しい乱流を伴う場合もあるだろうし、地層構造を保ちながら静かに滑る場合もあるだろう。それはまさにオリストストロームで観察される地相と整合する。

 津波地震、海溝陸側斜面における地滑り多発地帯、そしてオリストストロームはそれぞれ、地震学、海洋学、そして地質学の分野で別々に議論がなされてきた。これらを俯瞰(ふかん)的に見て統合的に把握し直すことにより、津波地震の正体が明らかになるかもしれない。

フジサンケイ ビジネスアイ
2019.11.1 許可を得て転載