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月の石の中のシュライバーサイト: Schribersites in a moon rock

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アポロ14号が持ち帰った透明な岩石14310の中の不透明な鉱物の中の鉄・ニッケル金属とトロイライトの中に、鉄リン化合物の鉱石シュライバーサイトが発見された(El Gorsey 1971)。シュライバーサイトは、広く隕石に存在しているので、普通は隕石の混入と考える。しかし、今回発見されたシュライバーサイトは、鉄ニッケル金属の粒の中の二つの小さな丸い粒として存在しており(写真)、月で作られたものである可能性が高い。X線蛍光解析の結果、一つはほとんど純粋なFePで、もう一つは、Niが28重量パーセント混ざっていることが分かった。

El Goresy, A. et al. 1971, The geochemistry of the opaque minerals in Apollo 14 crystalline rocks, Earth and Planetary Science letters, 13, 121-129.

燐酸グリセロールの前生物的合成: Prebaiotic formation of Glycerol-phosphate

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グリセロールとシュライバーサイト[(Fe,Ni)3P]を水中で嫌気的な環境で65度Cに加熱すると、亜燐酸と燐酸グリセロールが2.5%の収率で生成した(Pasek et al. 2013)。燐酸グリセロールは細胞膜の主成分である。

Pasek M.A. et al. 2013, Evidence for reactive reduced phosphorous species in the early Archean ocean, 110, 10089-10094.

ホウ酸鉱物とRNAワールドの起源: Borate minerals and origin of RNA world

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RNAワールドは前生物的(>3.7Ga)化学と現代のDNA/タンパク質生化学の間を埋める重要な鍵である。RNAワールド仮説が成り立つためには、それに先立ってRNAを構成するリボースが他の糖に対して際立って安定になる環境が整えられる必要があった。ホウ酸溶液の中で、リボースが特に安定になる事実が発見され(Bener 2004)、これがこの問題に対する解決と考えらるようになった。残る問題は、RNAの合成が進む原初地球において、十分な量のホウ素が存在していたかということになる。

ホウ素は典型的な地殻元素であり、上部大陸地殻に存在密度が高い(Grew et al.2011)。すなわち、上部地殻において平均17 ppmに対して、下部近くで2 ppm、原初マントルで0.26ppmの濃度である。さらに、ホウ素は、地殻岩石の中に不均等に分布している。例えば、花崗岩には40 ppm、海洋堆積物で180 ppmそして、変質海洋地殻で270 ppmに達する。

グリーンランドのイスア複合体(変性年代が3650-3600Ma)から、変性トルマリン(苦土電気石(dravite)と黒トルマリン(schorl))が発見されているのがホウ素鉱物のもっとも古い例である。トルマリンのコアは、もともとはこれらが岩屑であったことを示しており、その岩屑の形成年代はさらに古い可能性がある。

Harrison (2009)は、4300Maの地球は、現在の地球とよく似ていたと結論している。つまり、浅いとはいえプレートの沈み込みが主要な役割を果たし、水が全球的な海に凝集していた。その場合は、ホウ素循環は現在の地球のそれと似ているはずである。Ushikuboi et al. (2008)は、冥王代ジルコンの高いLi濃度とδ7Li値は、4300Maにおける化学分化と地殻の風化の存在を示している。もし、大陸地殻のLi濃度が高いならばホウ素も同様に高かったと考えられる。したがって、冥王代においても、新生代や完新世と同様に、ホウ酸が蒸発岩として析出していた可能性が高い。

一方、Shaw and Middletown (1972) アポロ月探査で持ち帰られた月の高地のKREEPに富む玄武岩のホウ素濃度を調べ10-20 ppmと地球の現在の地殻岩石と同程度に高いことを見出した。これらと同種の岩石は、冥王代地球にも存在したはずである。したがって、大陸地殻が存在し、その内部で乾燥気候が発達すれば、蒸発岩としてホウ酸鉱物が大量に形成される可能性が高い。

Benner, S.A., 2004, Understanding nucleic acid using synthetic chemistry, Acc. Chem. res., 37, 784-797.

Grew E.S. et al. 2011, Borate Minerals and origin of the RNA World, Orig. Life Evol. Biosph., 41, 307-316.

Harrison, T.M. 2009, The Hadean crust: evidence from >4Ga zirons. Ann. Rev. Earth Planet Sci. 37, 479-505.

Ushikubo, T. et al. 2008, Lithium in Jack Hills zircons: Evidence for extensive weathering of Earth's earliest crust, Earth Planet Sci. Lett., 272, 666-676.

Shaw, D.M. and Middletone T.A. 1987, LPI, 18, 912.

マグネシウムと生命の起源: Magnesium and Origin of life

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マグネシウムはATPの燐酸に結合し安定化する

マグネシウムは、酸素原子6つを効率的に配位する能力を持ち、生化学において特別な役割をしている(Holm 2012)。このような酸素は、酸化物陰イオンの一部の場合が多い。例えば、Mg2+は、大きな分子の中の別々の離れた燐酸イオンと結合し、その結果としてRNA等の分子の折りたたみに関与している。このMg2+の性質はまた、核酸の中の二燐酸や三燐酸を安定化させるとともに、一燐酸から多リン酸への重合を助ける。このようなことから、マグネシウムが化学進化と生物の起源に深くかかわっていると考えられる。

海洋底は玄武岩と超苦鉄性の岩石でできている。これらは、苦鉄鉱物(かんらん石と輝石)を主成分とし、水と接触すると、蛇紋岩化反応を起こして蛇紋岩に変化する。蛇紋岩にはすべてのマグネシウムを含むことができないので、水酸化マグネシウムが主成分のブルーサイトが析出する。さらに、蛇紋岩化反応では、強アルカリの水素ガスに富んだ液体も形成され、局所的に還元的な環境が作り出される。この中で、二酸化炭素(CO2)、水素分子(H2O)、窒素分子 (N2)から、アンモニア(NH3)、シアニド(HCN)などの生物始原物質が合成されると考えられており、そこにマグネシウムを主成分とする鉱物が必然的に析出することは、都合がよい。

リン酸は、核酸の構成要素であり、生物には必須の物質である。ただし、生物が利用しているのは多燐酸(二燐酸と三燐酸)であり、単燐酸は最も安定で水に溶けにくく、生物にとっては使いにくい。冥王代地球において、多燐酸を得るには、二つの道筋があると考えられている。まず、ウィトロカイト(Ca18Mg2H2(PO4)14)のような燐酸マグネシウム鉱物を熱すると、燐酸凝集物(多隣酸の混合物)と水が生ずる(Sales et al. 1993; Arrhenius et al. 1997)。次に、多燐酸は隣鉱物であるシュライバーサイト(Fe,Ni)3Pの酸化でも作られる。シュライバーサイト(Fe,Ni)3Pが水と反応するとHPO3(2-)とH2PO2-が作られる。H2O2が鉄と反応するフェントン反応でOHラジカルとOOHラジカルが作られる。OHラジカルはHPO3(2-)とH2PO2-を酸化してHPO4(2-)を作りさらに凝集燐酸(二燐酸、三燐酸、環状燐酸を含む)を高い収率(約34%)で生成する(Pasek et al. 2008)。この反応は、地球玄武岩(Pauley 1969; Ulff-Moller 1985)でも月玄武岩に固有の鉱物(El Gorey et al. 1971)でも起こることが知られている。ウィトロカイトもシュライバーサイトも月の高地の岩石中に発見されているので、生命が誕生した冥王代の地球表面にも存在した可能性が高い。

一方、ホウ酸は核酸塩基と炭水化物、特にリボースの形成を進めることが知られている。リボースは、核酸のもう一つの成分である。地球で発見された最古のホウ酸鉱物は、ホウ酸化マグネシウムである(Grew et al. 2011)。水に溶けたホウ酸は、シス-水酸基構造体を構成することにより、五単糖(pentose)を安定化させる。また特に、Na-Mg-Al系ホウ酸鉱物である苦土電気石(dravite:NaMg3Al6(BO3)3Si618(OH)4)は、効率的にプリンを形成することが分かっている(Saladino et al 2011)。

Holm N.G. 2012, The significance of Mg in prebiotic geochemistry, Geobiology, 10, 269-279

Pauly, H., 1969, White cast iron with cohenite, schreibersite, and sulfides from Tertiary basalt on Disko, Greenland. Bulletin of the Geological Society of Denmark, 19, 8-26.

Ulff-Moller, F. 1985, Solidification history of the Kitdlit Lens: immiscile metal and sulphide liquids from a basaltic dyke on Disko, central West Greenland, Journal of Petrology, 26, 64-91.

El Gorsey A. et al. 1971, The geochemistry of the opaque minerals in Apollo 14 crystalline rocks, Earth and Planetary Science letters, 13, 121-129.

Grew, ES. et al. 2011, Borate minerals and origin of the RNA world, Origin of Life and Evolution of the Biosphere, 41, 307-316.

Pasek M.A. et al. 2008, Production of potentially prebiotic condensed phosphates by phosphorus redox chemistry, Angew. Chem. Int. Ed. 47, 7918-7920.

Saladino R. et al. 2011, The effect of borate minerals on the synthesis of nucleic acid bases, amino acids, and biogenic carboxylic acids from formamide, Origins of Life and Evolution of the Biosphere, 41, 317-330.

Arrhenius, G.O. et al. 1997, Entropy and charge in molecular evolution - the case of phosphate, Journal of Theoretical Biology, 187, 503-522.

Sales, B.C. et al. 1993, Structural properties of the amorphous phases produces by heating crystalline MgHPO4・3H2O, Journal of Non-Crystalline Solids, 159, 121-139.

冥王代の地球表層環境:The Hadean Surface Enviroment of the Earth

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わずかな地質学的なデータをつなぎ合わせることにより、原始地球の環境条件が明らかかになりつつある(Sleep 2010)。地球は、月を形成した大衝突(太陽系誕生から、40-50Myr後に発生)による高温状態から出発した。最初の100年から1000年は岩石の蒸気で覆われていた。衝突でできた深いマグマ海は、200万年ほど続いた。その冷却率はそれを覆う水蒸気やその他の温室効果ガスの量で決まる。マントルが固化すると大気中の水蒸気が、液化して500Kの温かい海を形成しその上を約100バールの二酸化炭素が覆うことになる。この暖かい地球は、二酸化炭素が大気の主成分である限り続く。二酸化炭素は海底で反応して石灰岩となり、海洋底の沈み込みとともに地球表面から取り除かれる。この二酸化炭素の除去にかかる時間は、200万年から1000万年ぐらいと見積もられている(Zhanle et al. 2006; 2010)。原始太陽は現在より30%暗いので、温室効果ガスがないと完全に凍結する。

Sleep, N.H. 2013, The Hadean-Archan Enviroment, Cold Spring Harbor Perspectives in Biology, 2, a002527

Zhanle, KJN, et al. 2006, Emergence of Habitable Planet, Space Scoence Review, 129, 35-78.

Zhanle, K., Schaefer, L, and Fegley, B., 2010, Earth's Earliest Atmosphere, Cold Spring Harbor Perspectives in Biology, 2, a004895

アエロゾルが低層雲に与える影響:The effect of aerosol on shallow clouds

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図の説明:2002年6月7月8月におけるアエロゾルと雲の空間分布。
上)アエロゾルの柱密度の空間分布。光学的厚さが輝度で、色がアエロゾルの種類を表している:赤:サブミクロン粒子と煙粒子で主に中央アフリカ煙がヨーロッパと北アメリカからの汚染アエロゾルである。緑:アフリカからの塵と海塩粒子。
下)低層雲(赤)と対流雲(緑)とその混合(青)。黒い領域は大陸を現わしている。

汚染された環境で発達する雲は、雲粒の粒が小さく数が多い傾向がある。この性質は、降水を押さえ雲の寿命を延ばすかもしれない。一方で、アエロゾルによる太陽光の吸収は、水蒸気の蒸散を押さえて雲の被覆率を下げるかもしれない。これらの効果をすべて合わせた雲への影響がよくわからず、地球の平均気温をを決める放射強制力を与える上でのもっとも大きな不確定性だとされてきた。そこで、Kaufmann et al (2005)は、MODIS(Moderate Resolution Imaging Spectrimeter)衛星の1km分解能の20002年の6月から8月のデータを使った大統計解析によって、海洋上の低層雲に対するアエロゾルの影響を調べた。彼らは、大西洋を4つの領域、つまり、海洋アエロゾルのみの南緯30度から20度の清浄領域、煙が卓越する南緯20度から北緯5度の煙領域、鉱物アエロゾルが卓越する北緯5度から25度のダスト領域、そして汚染アエロゾルが卓越する北緯30度から60度の汚染領域に分けた。すべての4種類のアエロゾルは、雲粒子のサイズを小さくしていた。また、清浄領域に比べ煙、ダスト、汚染領域は雲の被覆率20%から40%を高いことが分かった。低層雲に対するアエロゾルによる大気の頂上における放射効果は、大西洋是hタイで平均すると-11±3 W m^-2と見積もられた。このうち3分の1はアエロゾルの直接効効果で、残りの3分の2は、間接効果である。

この値を全海洋に適用できると仮定する。海洋の地球全表面に対する割合を70%とすると、アエロゾルの放射強制力は全球平均で-7.7 W m^-2となる。ちなみに、IPCC2013の報告書では、対応する値は-0.9 W m^-2としてあり、一桁近く低い値を採用している。

一方、Kaufman et al. 2005は、雲の日夜サイクルの影響を受けやすいMODISのデータを用いており、これを考慮すると、アエロゾル雲効果はさらに大きい可能性がある。

放射強制力から地球平均気温変化の変換係数は0.7-2.2 Wm^-2/度とされているようだ。中を取って1Wm^-2/度としよう。アエロゾルが全海洋で平均して有意に(2-10倍ぐらい)増加したときは、5度―10度の平均気温変化が期待できる。これは、氷期・間氷期サイクルにおける変動を説明できる強さである。一方、アエロゾルの数密度が10%程度変動する場合は、放射強制力の変化は、0.8 W m^-2程度で、対応する地球平均気温の変化は1度程度であろう。小氷期の寒冷化や最近の温暖化の温度変化は、銀河宇宙線強度が太陽風の強さの変動により数十パーセント変動し、海洋における硫酸エロゾルの数密度が10%程度変動したことで説明できる可能性がある。

1) Kauffman et al. 2005, The effect of smoke, dust, and pollution aerosol on shallow cloud development over the Atlantic Ocean, PNAS, 102, 11207-11212.

アエロゾル―雲効果と氷期-間氷期気候サイクル: Aerosol-cloud effects enhance glacial-interglacial cycles

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境界層へのアエロゾルの放出が、降水の抑制もしくは雲の不活性化を通じて、雲頂を高くし、雲の長命化をもたらすことはよく知られている。Bar-Or et al. 2011は、このようなアエロゾル―雲効果が最終的には氷期・間氷期気候サイクルに与える影響を、二次元気候数値シミュレーションで調べた。最近の研究結果では、アエロゾルによる降水の抑制が、ベナード対流セルの向きを逆転させ、劇的に雲被覆率を替えることが分かっている。この効果を考慮した計算を行うと、負の気候強制力が強くなり北半球の表面温度を下げることが分かった。氷期には寒冷化による強風と海退による陸地面積の増加によりアエロゾル量が増加し、寒冷化をさらに強めることが分かった。

1) Bar-or, R. Z., Gildor, H., and Erlick, C. 2011, The aerosol-Benard cell effects on marine stratocumulus clouds and contribution to glacial-interglacial cycles, Journal of geophysical Reserach, 116, D10119.

海洋低層雲の日夜サイクル:diural cycle of marine low clouds

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左:清浄な場合。夜に雲被覆率が上がるが、朝早期に晴れあがる(c,e)。夜間に降雨があり(d)、アエロゾル密度は低く保たれる(a)。

右:汚染条件では、午前中まで雲の被覆率が高く、晴れあがりは午後にずれ込む(c,e)。海洋への太陽の直射が少ないので対流は発達せず、降雨もまったくない(d)。このためアエロゾル密度は高く保たれる(a)

雲解像シミュレーションを行って、海洋上の境界層における対流モードが、アエロゾル数密度の変化で、降雨(開かれた対流セル)モードと非降雨(閉じた対流セル)モードの二つのモードにはっきりと分かれることが確認された(Jenkins et al. 2013)。数値実験は、南外洋のの清浄なアエロゾル密度条件と東シナ海の汚染の進んだアエロゾル密度条件で行われた。清浄な条件では、降雨がある開かれた対流モードが卓越した。一方、汚染条件では、降雨がない閉じた対流モードが卓越した。どちらも雲の被覆率が日夜サイクルを強く示した(夜は100パーセント雲、昼はほとんど雲なし)が、汚染条件では、晴れあがる時間が遅く、平均の雲被覆率は有意に高くなった。

アエロゾルが少ない清浄条件では、夜は雲りがちになるものの、朝早く(午前8時ごろ)にそれが消え、太陽が差し込んで対流が発達し、夕方には降雨がある陽性の天気になる。一方、アエロゾルが多い汚染条件では、夜から昼過ぎまで雲の覆われて、対流が発達せず、雨も降らないどんよりした陰性の天気になる。後者の面積が多いと、平均の雲被覆率が増え、地球の平均アルベドが上昇するため、寒冷化が進むと考えられる。

また、このような強い日夜サイクルを考慮すると、午後1時30分ごろしか観測しないMODIS衛星などの太陽同期軌道にある衛星による観測結果の解釈には、大変注意が必要であることを示唆している。

さらには、雲を解像せず、日夜サイクルもあまり考慮しない気候シミュレーションモデルを信じて、気候変動を議論することも大変危険であることが分かる。

1) Jenkins, A. K., Forster, P.M., and Jackson, L.S. 2013, The effects of timing and rate of marine cloud brightening aerosol injection on albedo changes during the diurnal cycle of marine stratcumulus clouds, Atmos. Chem. Phys., 13, 1659-1673.

アエロゾル密度による海洋境界層における雲被覆率の急激な変化: Switching cloud cover from open to closed benard cells in response to the density of aerosols

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左:海洋境界層上の低層雲は二つの状態があるように見える

右:開いたセルでは、雲の被覆率が小さく、雲粒のサイズが大きい。閉じたセルでは、雲の被覆率が大きくて、雲粒のサイズが小さい。

海洋上の大気の境界層は、雲核の数密度によって、以下の3つにのはっきり分かれたモードをとることが分かった(Rosenfeld et al. 2006)。1)雲核に富む海洋境界層は、閉じたベナード対流セルを形成し、ほぼ完全に雲に覆われる。このような場所では、対流の駆動が雲頂における冷却によって駆動される。つまり、雲頂で冷やされた雲はセルの外壁に沿って落下し、それを補償するためセルの中央に上昇龍が生まれる。2)雲核が少ない海洋境界層は、開かれたベナード対流セルを形成する。雲被覆率が40%以下である。このような場所では、対流は海上を照らす太陽熱によって駆動される。温められた空気は外壁に沿って上昇し、それを補償するためにセルの中央に下降流が生まれる。3)雲核欠乏海洋境界層は、雲核の欠乏のために雲ができないので、雲がない。

この3つのモードの遷移はアエロゾル密度が制御している。アエロゾル密度が30-40 cm^-3に増えると、降雨が抑えられて、対流の向きを逆転させ、対流セルを開かれたものから閉じたものに変えてしまう。逆に、降雨によりアエロゾル密度が30-40 cm^-3以下に減ると、さらに降雨が激しくなって、アエロゾル密度が4cm^-3 まで急速に減る。このような対流モードの遷移は、清浄な空気の背景アエロゾル密度(数―数十cm^-3)ぐらいで起こる。

このような境界層対流セルのモードの変化により、雲の被覆率はアエロゾル密度に極めて敏感に反応することが分かった。宇宙線の増加による海洋上でのアエロゾルの数密度の増加はこのようなメカニズムでを通して気候変化に大きな影響を与える可能性が出てきた。

1) Rosenfeld, D., Kaufman, Y.J., and Koren, I. 2006, Switching cloud cover and dynamical regimes from open to closed benard cells in response to the suppression of precipitation by aerozols, Atms. Chem. Phys., 6, 2503-2511.

リボザイムによる自己触媒ネットワーク:Self-splicing netwaork by ribozyme

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地球における生命の発生には、生物学的な情報を維持し進化させることが可能な、自己複製化学反応系の成立が必要である。自己複製RNAが一つしかないRNAワールドでは、自分自身の情報を維持するためと寄生的な分子に対して十分に高い競争力を保つために、変異率を十分に下げることが重要であるが、それが非常にむずかしいことが分かってきた。理論的な解析ではお互いに相互作用する複数の分子のネットワークの方が、生命らしいふるまいをする化学反応系を発展させやすいことが分かっている。

Vaidya et al. (2012)は、自己複製リボザイムに自発集合するRNAの破片の集合体が、自発的に協働的触媒サイクルを発達させることを示した。約200残基からできているAzoacus I族イントロンリボザイムは複数に分割しても、そのRNA断片は、自発的に再集合し、自己触媒的な再結合反応を触媒する。リボザイムの5'末端に三残基からなる認識部位を置くことにより自己集合が起きる。このような性質を使い、認識部位をうまく選ぶことにより、ある反応の生成物が次の反応の触媒になるような三要素反応ネットワークを構成した(図)。彼らは、このような反応ネットワークが特に協働的に急速に成長することを見出した。協働ネットワークは利己的な自己触媒反応に打ち勝って、より速く成長する。つまり、RNA分子の集合体は協働を通じてより複雑な反応系に進化しえることが分かった。

さらに、上記の系に変異を人工的に導入した系での振る舞いを調べ、協働ネットワークが試験管内環境での自然選択により進化することを見出した。これらの実験は、萌芽的な生命の分子進化段階における協働的振る舞いの有利性を示している。RNAワールドの実態はこのようなものだったかもしれない。

1) Vaidya, N. et al. 2012, Spontaneous network formation among cooperative RNA replicators, Nature, , 491, 72-76.