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深刻化するスペースデブリ問題 研究本格化を

宇宙ごみ(スペースデブリ)は、地球衛星軌道を周回する不要な人工物体だ。宇宙開発の活発化に伴い増え続けており、約3000トンのスペースデブリが地球周回低軌道に存在するといわれている。その速度は弾丸よりも速い秒速10キロメートルに達するため、小さなスペースデブリであっても、人工衛星や宇宙ステーションに衝突すれば致命的な損傷を与える可能性がある。スペースデブリ同士の相互衝突により増加したスペースデブリが、他のスペースデブリや衛星に衝突することで、さらに増殖することが懸念されている。実際、2000年から14年の間にスペースデブリの数は2倍近くに増えているとの報告もある。
 スペースデブリの中でも特に0.3~10センチメートルサイズのスペースデブリは非常に多数(およそ70万個以上)存在し、小さいため検出が困難なことから、最も危険とされている。これらのセンチメートルサイズのスペースデブリを除去する方法はまだ確立しておらず、大きなスペースデブリの数を減らすことで、自然に小さなスペースデブリが減少するのを待つしかないとされていた。しかし、1センチメートル以下のスペースデブリの密度がある臨界的な値を超えると、相互衝突により勝手に数が増加することが知られており、その理論の提案者の名前を取ってケッスラー・シンドロームと呼んでいる。研究者の間では、既にそのような憂慮すべき状態に入ったのではないかとの心配が広がっている。
  最近、高輝度のレーザーをスペースデブリに照射するとプラズマが噴き出す現象を利用して、スペースデブリを脱軌道させて地球大気に再突入させる方法が提案され、有望な方法として検討が始まっている。スペースデブリ検出には口径2メートルほどの超広角望遠鏡を用い、軌道を粗く決めた後、その方向に探索レーザービームを照射し、軌道を正確に決定して、その方向に高輝度レーザーを照射する。レーザーによってスペースデブリ表面が高温化し、プラズマが噴出する。その反力でスペースデブリを減速させ、大気への再突入に導くというアイデアだ。
 この実現のためには、多くの技術開発が必要である。超広角望遠鏡は、宇宙からやって来る超高エネルギー粒子の検出用に開発された技術を用いる。高輝度レーザーは多数のファイバーで同時に発振させ、そのビームを結合して用いる。100キロメートル先の1センチメートルのスペースデブリに対して安定してレーザービームを照射し続けるには、レーザー発振器および射出望遠鏡に高度な制御が必要である。さらには、近づいてくるスペースデブリを検出し、軌道変更まで最大10秒で終わらせる必要がある。
 一方、不要物体といっても、それを打ち上げた国や組織が存在しており、その所有権は厳然と存在していることから、勝手に片づけることはできない。しかしながら、個々のスペースデブリがどの国に所属しており、所有者が誰かを特定することは、実際上不可能である。このことも、問題解決への動きの具体化を困難にしている。
 さらに、高輝度レーザーを宇宙で運用すること自体、宇宙の平和利用の観点から、宇宙機関の間で強い躊躇(ちゅうちょ)があることも事実だ。したがって、国際的な合意の上で、公平な国際機関の管理の下で推進することが必要となる。いずれにしろ時間がかかりそうだ。
 幾多の困難があるが、次世代に安全で平和な宇宙を残すためにわれわれの世代が立ち上がり、技術的な問題の解決へ向けて研究を本格化するとともに、具体的な対策のための国際的な議論を今始めなければならない。
フジサンケイビジネスアイ 高論卓説2016年8月
許可を得て転載

人間の脳を超えるスパコンで人間性の実証的研究

人間の脳は、どれくらいの性能の電子計算機と等価なのだろうか。神経細胞の数は約1000億個といわれている。1つの神経細胞は、約1ミリ秒に1回、1000から1万個の別の神経細胞から情報を得て、自分の興奮状態を決めると教科書には書いてある。そこで行われる演算は「積和演算」だ。それが1000億個あることを考慮すると、1秒間に20京~200京の速度を持つ計算機で、人間の脳と等価になる。
 最近は、脳の神経細胞の性質が、詳しく分かるようになっている。神経細胞の多くは小脳にあって、その大部分の入力数はかなり小さい。大脳にある神経細胞の一部は、網の目のように多点で結合しているものがあるという具合だ。これらを考慮しても、人間の脳は1秒間に10京~100京回演算をする電子計算機と思えばいい。
 一方で、世界最速のスーパーコンピューターの開発は、日米中でしのぎを削っている。当面の開発目標は1秒間に100京演算を実行できるスパコンで、2020年をめどにプロジェクトが進んでいる。つまり、20年ごろには、計算効率を考慮しても人間の脳全体の処理速度に匹敵するスパコンが出現する。この計算機の開発が浮上した時期に、計算機に基づいた人工知能(AI)が人間臭い行動をし始め、よく定義された問題では人間の能力を追い越し始めたのは、偶然ではないと考える。
人間の知能をAIが超えてしまい社会が根本から変わってしまう「シンギュラリティ」が20年ごろを起点として起こるのは、計算機の性能向上を考えると必然だ。逆に、積和演算がひたすら速い超並列マシン、いわゆるスパコンを開発することがAI研究の最重要課題となったということも言える。脳型コンピューターは、行列演算に特化したスパコンに収斂(しゅうれん)したのだ。
 では、演算処理速度としては、人間の脳に匹敵する100京マシンは、人間の脳を代替できるだろうか。その答えは、ある意味では「イエス」であり、ある意味では「ノー」だろう。本当に大事な問いは、何ができて何ができないのかを検証し、その理由は何かを明らかにすることである。そのための数値実験が20年代に盛んに行われるようになるだろう。
 人間心理、文学、音楽、詩、哲学など、これまで人間のみが直接関与できた研究分野が、電子計算機を使って実証的に検証しながら研究が進むようになるはずだ。人間の脳の中の状態を詳細に把握することは難しい。しかし、その機能を電子計算機に移すことができるのならば、電子計算機の内部情報はいかようにでも把握できる。これまでの文系学問の研究が、電子計算機を道具に理系の手法を取り入れて一気に加速するかもしれない。
 さらには、人間の理解が一層進むだろう。脳の解剖学的なデータや神経細胞の結合を詳細に調べて、それを電子計算機で模倣すればその動作が手に取るようにわかるはずだ。その過程で人間を特徴づける脳の特殊性と普遍性が明らかになるだろう。
 今のところ人間の専売特許である「創造性の発揮」の謎が解明されるかもしれない。ただし、行列演算主体のスパコンによる、神経細胞をたくさん集めただけのシステムが創造性をバリバリ発揮するとは、実は私も思っていない。それでも、それをやってみることには、重大な意味がある。実は予想が間違っていて、創造性が生まれたら、それでよし。もし、うまくいかなくても何が足らないのかがおぼろげながら見えてくる。それを克服する方法を模索することが次の研究段階となる。科学研究はこのように曲折しながら進んでゆくものだ。そのような研究の中から、「人間性とは何か」という根本的課題に対する答えが得られるかもしれない。

新規遺伝子の出現に関する「出精巣」仮説: The "out of testis" hypothesis for the emergence of new genes

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新規遺伝子の出現に関する「出精巣」仮説(Kessmann 2010)は、新しい遺伝子や遺伝子構造の転写は、精巣の生殖細胞、減数分裂をする精母細胞と減数分裂後の精細胞で促進されると考える。一度、転写されると、新規の有効な機能をもつ遺伝子は選択的に保存され、より効率的なものへと進化する。最終的には、このような新規の遺伝子はより広い発現パターンを持つ、すなわち精巣以外の組織でも機能を獲得する。

精母細胞と精細胞は、精子形成が進む輸精細管の中に見られる。これらの細胞の中では、クロマチン構造が全体に緩んでいるためと、転写機構が強く発現しているために、新規遺伝子の転写が促進される。転写的に活発なクロマチン状態は、CpGリッチプロモータ配列の広範な脱メチル化とヒストン修飾(アセチル化とメチル化)の結果と考えられている。これらは転写機構のアクセスを促進する。

Kessmann, H. 2010, Origins, evolution, and phenotype impact of new
genes, Genome Research, 20, 1313-1326.

染色体における二回の遺伝子獲得バーストと、それに伴う哺乳類進化におけるオス偏向遺伝子の染色体間での再分配 Chromosomal Redistribution of Male-Biased Genes in Mammalian Evolution with Two Bursts of Gene Gain on the X Chromosome

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Zhang et al. 2010は、ヒトとマウスの持つ、個々のタンパク質をコードした遺伝子とマイクロRNA遺伝子の獲得年代を脊椎動物の系統樹解析により決定した。その結果、X染色体の獲得遺伝子数が、二つのピークを示すことをあきからにした。

一回目のピークは、1.3億年から0.9億年にかけての真獣族と有袋族の分岐の後(分岐5,6,7)にある。これは、真獣族にX染色体が出現し、性に関連した機能の進化の加速に伴って、多くの遺伝子が獲得されたという仮説に一致する。二回目のピークは0.5億年以内のできごとで、霊長類においてはチンパンジー・人類の分岐(分岐12)、齧歯類においては、マウスとラットの分岐(分岐11)以降に生じたものである。
5千万年以内に獲得されたオス偏向遺伝子(オスで発現している遺伝子)は、X染色体に集中している。これは、劣性でかつオスに有利に働く遺伝子が、選択的にX染色体に固定されたためのかもしれない。このような傾向は、より古い分岐で現れた遺伝子では減少する。3億年以前に獲得されたオス偏向遺伝子は、常染色体に多い。また、分岐5においては、メス偏向遺伝子の割合が、X染色体で常染色体に比べて大きい(39%)。一方、分岐6と7では常染色体、X染色体ともに15%である。これは、新しく獲得されたX染色体にあった遺伝子が強く正の選択を受け、オス偏向およびメス偏向の両方の遺伝子が過剰に獲得されたことを示している。

遺伝子獲得率の一回目のピーク(分岐5、6、7、)は、哺乳類の共通祖先において、真獣族と有袋族の分岐前にX染色体が出現したことを示している。初期のX染色体は、多くの遺伝子を獲得した結果、大きく変化しているはずである。もしこの説が正しいとすると、X染色体にもともとあった古い遺伝子が、新しく獲得された遺伝子と同様に多くの変異を受けている可能性がある。実際に調べてみると、分岐5以後では同義・非同義変異比が有意に高いが、以後はそうではないことが分かった。これは、分岐5以前にはこれが性染色体ではなかったことを示唆している。

これまで述べてきたように、X染色体への集中が、より古い分岐時に獲得されたオス偏向遺伝子では減少する。マウスの精子形成における発現データを比べ、獲得年代が違う遺伝子の発現を比較し、どのような力がこの非男性化過程を駆動しているのか調べてみた。その結果、古い遺伝子は、減数分裂期以前(精原細胞)で発現しているが、パテキン期から減数分裂後期(精子細胞)には抑制されている。一方、新しい遺伝子は減数分裂期以前のみならず、減数分裂後に至っても抑制されていない。このことは、古い遺伝子がMSCI(meiotic sex chromosome inactivation:減数分裂性染色体抑制)で抑制されるのに対し、X染色体上の新しい遺伝子は、発現が抑制されないことを示している。オス偏向遺伝子は、最終的には、MSCIにより抑制されるX染色体から、それがない常染色体に移る。その結果、X染色体には、メス偏向性遺伝子が残ると考えられる。一方で、X染色体上に存在するオス偏向性遺伝子は、MSCIから逃れた遺伝子と考えられる。

メス偏向遺伝子は、オス変更遺伝子とは対照的な分布を示す。つまり、古いX染色体遺伝子は、メス偏向遺伝子がより多い。常染色体上の若い遺伝子は、卵巣でより強く発現する。さらに、X染色体上の若い遺伝子も卵巣で発現する。このような発現の傾向は脳を除いて、肝臓や肺などでも観察される。一方、脳の発現パターンは独特である。つまり、分岐7より後に獲得された若い遺伝子は、常染色体に比較的多いが、古い遺伝子(分岐7以前)はX染色体により多く存在する。これはX染色体に脳発現遺伝子が多いという以前の知見と一致している。

これまで述べてきたようなX染色体の特徴は、miRNAにおいても見られるため、タンパク質をコードした遺伝子だけの特徴ではないことがわかる。

まとめると、X染色体はシーケンスの面からも発現の面からも、真獣族と有袋族の分岐の直後から、大きな進化が起こっていることがわかる。

1)Zhang, Y.E., 2010, Chromosomal Redistribution of Male-Biased Genes in Mammalian Evolution with Two Bursts of Gene Gain on the X Chromosome, PLos Biology, 8, e1000494.
(Khill et al. 2004)。

(一部、奈良先端大、大島氏の協力を得た)

新規遺伝子の出現率:Emergence rate of founder genes

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生物はもともとある遺伝子を元にして、その重複と再構成で新しい遺伝子を作ってきたと考えられてきた。ところが最近になって、元になっている遺伝子が見つからない「孤児」遺伝子がたくさん存在することが分かってきた。それらは、重複や再構成から始まったが原型がわからないほど変化してしまった遺伝子か、ゲノムの非翻訳領域からコピーされて、何らかの理由で調節機構を獲得し新たに遺伝子になったものらしい。後者はこれまであまり多くないと考えられてきたが、最近になってこの遺伝子獲得機構が生物進化に重要な役割を果たしていることが分かってきた。

Tauz and Domazet-Loso 2011は、マウス、ショウジョウバエ、シロイヌナズナの進化史における新規遺伝子の出現率の変化を調べてみた。新規遺伝子の出現率は、一様ではなく、いくつかのはっきりとしたピークがみられる。マウスにかんしては、後生動物(Metazoa)が生れた8-7億年頃と、真獣類(Eutheria)と有袋類が分かれた直後(約1億年前)に二つの顕著なピークがある。前者のピークはショウジョウバエにもみられる。シロイヌナズナに関しては、バラ類(Rosids)などの被子植物が適応放散した1億年前頃に植物固有のピークがある。これは、マウスの二つ目のピークとおおむね一致している

一つ目のピークの時期、つまり、約8-7億年前は、超大陸ロディニアが後に太平洋を作るスーパープリュームの活動で分裂しかけており、繰り返し全球凍結事件が起きていた。この時期に後生動物が生れ、エディアカラ動物群から、カンブリア生物大爆発への道が開かれた

一方、二つ目のピークの時期、つまり1億年前は、超大陸ゴンドワナが分裂を開始していた。この開裂が後に大西洋となる。この時期に哺乳類と被子植物が誕生している。

1)Tauz, D and Domazet-Loso, T. 2011, Nature Review, Genetics, 12, 692-702.

白亜紀末の寒冷化と暗黒星雲遭遇による大絶滅:End-cretaceous cooling and mass extinction driven by a dark cloud encounter

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Nimura et al. (2016)は、深海底コアのサイト886Cの遠洋堆積物の中に、イリジウム濃度が異常に高い層が5m連続的に分布していることを発見した。そのイリジウム以上層の最上層近くに、チュチュルブ小惑星衝突に関係するK-Pg(中世代―新生代)境界のイリジウム濃度スパイクがある。この幅の広いイリジウム濃度の異常は、地球表面起源のいかなる成分の混合でも説明できない。一方で、太陽系が100pcに及びその中心濃度が2000個陽子/cm^3に達する巨大分子雲に遭遇したと考えるとうまく説明できる。Kataoka et al. (2013;2014)は太陽系の暗黒星雲との遭遇が、大量絶滅を引き起こす地球に環境の破局をもたらすことを示している。

暗黒星雲に含まれる固体微粒子は少なくとも数か月の間、成層圏にとどまる。その太陽遮蔽効果は-9.3 Wm^-2ほどもある。これは、地球を一時的に全球凍結に至らせるに十分な強さである。このような暗黒星雲との遭遇が、酸素同位体やストロンチウム同位体の測定結果で示唆されている白亜紀の最後の8百万年間に及ぶ全球的な寒冷化の原因だったと考えられる。その結果、大陸氷床の成長により海面水準が下がった。この全球的な寒冷化は、化石生物の種の多様性の減少に伴って起こっており、最終的には、K-Pg境界の大量絶滅を引き起こしたと考えられる。

1) Nimura, T., Ebisuzaki, T., and Maruyama S., 2016, End-cretaceous cooling and mass extinction driven by a dark cloud encounter, Gondwana Reserach, accepted.

2) Kataoka, R. Ebisuzaki, T. et al. 2013, Snowball earth driven by starbursts of the milky way galaxy, New Astronomy, 21, 50-62.

3) Kataoka, R., Ebisuzaki, T. et al. 2014, The Nebula Winter: the united theory of the snowball earth, mass extinctions, and explosive evolution in the late Neprotrozoic and Cambrian periods, Gondwana Reserach, 25, 1153-1163.

図書館は研究者の生命線 学際研究、情報駆使して真剣勝負

 研究の進歩が加速している。ちょっと前までは一つの方法論を武器に20年は世界の一線で戦えた。つまり、大学院の頃、習い覚えた学問体系と手法で50歳前後まで頑張り、後は若い研究者を指導(搾取)しつつ、学会や組織間の利害の調整に時間を使って60歳の定年を迎えるというのが研究者の典型的なライフサイクルだった。
 ところが今や、世界中の研究者との競争のため、ちょっとした手法の有利は5~10年で陳腐化してしまう。優秀な若手研究者が頑張って定職に就いて、40代になった頃に、彼(彼女)を支えていた手法が賞味期限を過ぎ、定職に就いた安心感と雑用の嵐に埋もれて、一気に保守化して研究者としては脱落していく例をよく見る。定年はどんどん伸びている。せっかく博士号を取得したのに、実質的には10年しか研究者として活動しないのは、もったいない気がする。
 近年進歩の著しいITは、中年・初老の研究者に福音をもたらしている。ほとんどの研究誌が電子化されたので、研究室にいながらにして、多くの論文のコピーを集めて一気に読めるようになった。また、必要な情報(研究論文の書誌情報を含め)はインターネットで検索をかけ瞬時に得られる。これらを駆使すれば、衰えがちな体力(集中力)と記憶力を補って、研究に必要な情報を一気に頭の中に詰め込むことができるのだ。
 私が学生の頃は、大学の図書館に籠もって、書庫の中を這(は)いずって目的の雑誌を見つけ、せっせと自分でコピーしなければならなかった。この作業だけで小一時間はかかり、せっかく頭の中に蓄積しつつあった研究情報も消えて、一から考え直しとなっていた。
 ここ10年、私は自分が博士号を取った天体物理学の分野を超えていろいろな分野で論文を書くようになった。それは、周辺領域の計算科学、プラズマ物理、放射線科学さえも超えて、宇宙工学、惑星科学、放射線生物学、さらには地球科学、分子生物学、生物進化などに広がっている。それぞれユニークな視点を与えるオリジナリティーの高い仕事と自負している、その評価が定まるのは20年後だろうが。
 それを可能にしたのは、図書館だ。研究所や大学の図書館は、書籍の所蔵もさることながら、研究誌の購読が大きな任務となっている。私が勤務する理研の図書館は「日本で唯一の自然科学の総合研究所」と謳(うた)うだけあって、多くの分野の雑誌を購読し、比較的早期に電子版購入に踏み切った。
 また、理研が購読していない雑誌については、全国の大学・研究所の図書館が連携して運用している文献コピーサービスを愛用させてもらっている。1週間程度の遅れはあるが、ほとんどの研究雑誌のコピーを手にすることができる。大変ありがたいことだ。
 現在、学際研究の必要性が叫ばれている。私の経験では、異分野の研究者の講演を聞いたり、一緒に談笑するだけでは、学際研究はその端緒さえにも至らない。講演に先立って関係する論文を読んで、自分なりに論点を予習しておくことが肝要だ。さらに、本番で講演者との真剣勝負の議論を重ね、講演後にも新たに見いだした論点に関する論文を読んで、引き続き復習するという努力が必要だ。予習と復習が重要なのは受験生だけではない。それを可能にするインフラストラクチャーの一つが、図書館をはじめとする充実した研究情報環境だ。
 図書館は研究者が研究者であり続けるための生命線である。
SankeiBiz、2016年3月9日 許可を得て転載

ブラックホール連星の起源と超巨大ブラックホールへの成長:The origin of blackhole binary and the formation of supermassive blackholes.

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多くの銀河の中心核に太陽の100万倍から10億倍の質量をもつ超巨大ブラックホール(SMBH)があることは、星とガスの運動学研究からはっきりとしてきた。一方、その形成機構は良く和分かっていない。その一つの理由は、恒星質量ブラックホールと超巨大ブラックホールとの間の質量をもつ「中間質量」ブラックホールが発見されていないことにある。X線天文衛星ASCAとChandraのスターバースト銀河M82の中心部分の観測の観測により、このミッシングリンク、中間質量ブラックホールが発見された。Subaru望遠鏡による引き続きの観測で、この中間質量ブラックホールの位置が、若いコンパクトな星団に一致していることが分かった。

これらの発見を総合して、Ebisuzaki et al. 2001は、超巨大ブラックホールの新しい形成シナリオを提案した。このシナリオにおいては、中間質量ブラックホールは、若いコンパクトな星団における大質量星の暴走的な合体で作られる。これらの中間質量ブラックホールが形成されている間に、それを含んだ星団が銀河中心核に力学摩擦で落下する。銀河中心核に近づきすぎると、星団が破壊されて中間質量ブラックホールが、放出される。このような中間質量ブラックホールが二つ集まって連星系を作り、最終的には重力波を放出して合体する。このような中間質量ブラックホールの合体を通して銀河中心核のブラックホールは成長し、ついには超巨大質量に至ると考えられる。

先に報告された重力波バーストは、36太陽質量と29太陽質量のブラックホール連星合体によるものとされている。これは、上記のシナリオの中の初期の過程によるものと考えられ、それを強くサポートするものである。

1) Ebisuzaki, T. et al. 2001, MISSING LINK FOUND? THE “RUNAWAY” PATH TO SUPERMASSIVE BLACK HOLES, Astrophysical Journal Letters, 562, L19-L22.

2) Abbott, Benjamin P.; et al. (LIGO Scientific Collaboration and Virgo Collaboration) (11 February 2016). "Properties of the binary black hole merger GW150914". arXiv:1602.03840.

ストレスを受けた植物の世代をまたいだレトロ転移をsiRNAが妨げている:An siRNA pathway prebvents transgenerational retroposition in plants subjected to stress

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真核生物のゲノムは、かなりの割合をレトロトランスポゾンで占められている。ただし、その活動は宿主のエピゲノム機構で制御され、不必要な場合は抑制されている。しかし、この抑制機構の詳細はわかっていない。Ito et al. 2011は、熱ストレスをかけたArabidopsisの実生苗において、ONSENという名前を付けたレトロポゾンの転写が活性化し、染色体外DNAコピーとして、細胞内に存在することを示した。小型干渉性RNA (siRNA)遺伝子が発現しないような変異株の場合、転写産物量と、染色体外コピー数がさらに増加した。熱ストレス後、ONSENの転写と染色体外DNAは、次第に減少し、20-30日後には検出できなくなるが、siRNAが欠失した変異体では、その子孫のゲノムにONSENの新しい挿入が高い頻度で観測された。挿入パターンの解析から、世代を超えたレトロ転移が花芽の分化時の配偶子形成以前に起こっていることが分かった。したがって、siRNA生合成不全のArabidopsisにおいては、生殖細胞の分化の際にONSENが転移でき、ストレスの記憶が分化の際に維持されることを可能にしている。その結果子孫が、新たな遺伝子型のバリエーション(子孫同士の遺伝子型も異なる)を持つことになる。

ストレスをかけた野生型の植物体の子孫にもストレスをかけなかったコントロールの植物体にも、レトロ転移は観察されなかった。これはsiRNAが、環境ストレスによって誘導されるトランスポゾンの転移を制限していることを示している。Ito et al 2011は、天然でも、あるいは変異株で誘導された場合でも、ONSENのエクソン内への挿入変異体が生じ、熱応答に貢献していることを見出した。このことは、トランスポゾンの誘導と、それによる転移の爆発的な増加が、新規なストレス応答性の遺伝子制御ネットワークの構築に貢献していることを示しているのかもしれない。
(一部、奈良先端大、大島氏の協力を得た)

1) Ito, H. et al. 2011, An siRNA pathway prevents transgenerational retroposition in plants subjected to stress, Nature, 472, doi:10.1038/nature09861.

地球型惑星への揮発成分降着の歴史: Volatile accretion history of the terrestrial planets and dynamic implications

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地球、火星、金星は、非常に違う歴史を持っている。地球はプレートテクトニクスが活発で、液体の海があり、生命が育まれている。火星は、大気は薄く、明白なプレートテクトニクスの証拠はなく、水圏もなく、生命の手掛かりはない。金星は硫酸の雲を持つ分厚い二酸化炭素の大気で覆われており、その表面は灼熱の地獄である。生命を語るとき最初に問題になるのが液体の水の存在である。水の存在は、惑星マントルの粘性学的な性質を変えて、プレートテクトニクス起動の条件を与える。最近の動力学的な計算は、太陽系内部(太陽のそば)にあった原始惑星は、乾燥条件で生まれ、後になって成長した巨大惑星が、氷に富んだ小惑星の軌道を乱して内側に送り込み、水を運ばせたことを示唆している。

Albarede 2009は、地球と他の地球型惑星の揮発成分の少なさの理由は、それが揮発によって失われたのではなくて、惑星を作った材料物質のへの凝集が不完全だったことが原因だったと考えている。

地球は、表面の液体の海、いろいろな形の表層水、そして、鉱物の中の含水鉱物の形で存在する。90kmを超える深さでは、水はセリウムのような不適合元素と同じような振る舞いをする(Mitchel et al. 1995)。H2O/Ce比は、それぞれ上部と下部マントル物質からの溶融物からつくられた中央海嶺玄武岩でも、海洋島玄武岩でもだいたい200である。このような強い制限により、マントルにある水の総量は海洋の総量と同じぐらいで、マントル全体の150-350ppmであり、海も含めたときの総量は、300-550ppmである(Saal et al. 2002; Marty and Yokouchi2006)。

惑星は太陽系星雲から凝縮した固体成分が降着して作られる(Wyatt 2008)。原始太陽が放出する強い電磁風が太陽系星雲を吹き飛ばしてしまうので、固体粒子がなくなってしまうだいぶ前にガスがなくなってしまう。地球を形成するほとんどの固体成分は「雪線」の内側にある。これはこれより外側では水が凝縮する境界である。揮発性の指標としてよく使われる値はT50である。つまりその元素が50%揮発する温度のことだ。ここで、難揮発性のウラニウム(T50=1610K)とより揮発性の高いカリウム(T50=1006K)を比べよう(Lodders 2003)。K/U比は惑星の揮発元素が難揮発性元素に対してどれくらい少ないかを見る指標となる。太陽の光球(したがって太陽系全体の平均)ではK/U比は60,000であり(Tayler 1984)、地球ではだいたい10,000である(Jochum 1983; Wassenburg 1964)。これは、地球は85%、Kが少ないことを示している。一方で、月のK/U比は3,000で欠失が95%に達していることを示している。火星隕石のK/U比は、落下してから採取されるまでの長期の変成を考慮しても<20,000である(Lodders 1998)。また、92-98%の欠乏ががZn、Ag、As、Sb、Sn、Pbそして最も重要なことにSにみられる(Dreibus
and Paime 1996; O'Neil and Palme 1998)。

揮発性元素の欠失を説明するためには、揮発性元素が凝集するに十分なほど温度が下がる前に、太陽系星雲のガスが太陽からの高エネルギー放射により、吹き飛ばされたと考える必要がある。ほとんどの元素は、非常に狭い温度範囲で凝集する。その結果、ある特定の揮発性を持った一群の元素の凝集率は温度が下がるにつれて、階段状に変化する(Lodders 2003; Grossman 1972; Larimer 1967)。白金族元素、Al、Ti、Zr、Wとほとんどの希土類元素とアクチノイド元素は超難揮発性で1600K以上で凝集し、コンドライトの難揮発性包有物に豊富に含まれている。それに続くのは、Si、アルカリ土類、遷移金属などの難揮発性親石元素で、1300Kで凝集し、コンドライトに典型的に見られる。次に、揮発性が高いのは、1150-850Kで凝集する高温親銅元素(As、Ga、Ge、Cu、Ag)、塩素とアルカリ元素(Li、Na、K、Rb、Cs)である。。低温親銅元素(Pb、Bi、Sn、Zn、Cd、Te)とその他のハロゲン元素はさらに揮発性が高い。残りの最も揮発性の高い元素は、N、C、Hgである。若い太陽の電磁放射が星雲のガスをまだ温度がのアルカリ元素の凝集温度(800-1000K)時に吹き払い、それよりも揮発性の高い元素の凝集を妨げたのだ。

一方で、雪線の外側では水と揮発元素はたくさん存在する。レイトべニア仮説は、アステロイド帯にあるCIコンドライトが、地球の固化後のある時に少量加わったとするものある(Chou 1978)。これは、白金族のような現在の高度に親鉄性の元素の過剰を説明するために考えられた。上に議論したように、ほとんどの揮発性元素の欠失は、低温のCIコンドライト物質の降下が2-5%以下でなければならないことを示している。それは、地球の水の総量を説明するのに必要な0.3%の付加よりもかなり多い。

惑星成長は以下の三段階に分かれるとされている(Wetherill 1986)。1)塵の惑星系星雲の赤道面への沈降とキロメートルサイズの微惑星の形成、2)微惑星の火星サイズの原始惑星への暴走的成長、3)原始惑星どうしの合体による現在の質量への成長。いつ、ガスが吹き払われたのかはよくわからないが、ガスがない固体粒子の円盤が3Myrぐらいで自壊してしまうことを考えると、惑星はガスが吹き払われる前にかなり成長したと考えられる。

D/H比が3x10^-4の彗星(Bockelee-Morvan 1998)による水の供給は、地球の海洋のD/H比(=1.5x10^-4; Huebner 2000; Lecuyer et al. 1998)を説明できないので、炭素質コンドライトが地球の水の源であると考えられる(Drake and Righter 2002; Robert 2001)。太陽系内での成長中の原始惑星の軌道は数値計算で調べられている(Raymond et al. 2006)。星雲のガスがある間は、地球軌道のような内側の太陽系では温度が高くで、水は凝集できななかった。このような時期、成長しつつある原始惑星への降着は局所的で、雪線の内側では、ほとんど水なしだったと考えられる。月形成の巨大衝突時に地球が湿っていてかなりの量のレイトべニアがあったとすると月のマントルが地球に比べて揮発性元素が少ないことがうまく説明できない。

水の降着のメカニズムは、3つの重要なイベントの相互時間関係によっている。それは、地球のコアの形成、月形成の巨大衝突、そして、レイトべニアの到着時期である。地球と月のケイ酸塩の中の182Wの超過が同じであることは、巨大衝突がカルシウムとアルミニウムに富む包有物の形成から60Myrに巨大衝突が起こっていることを要求する(Touboul et al. 2007)、衝突した二つの物体がほとんど同じHf/W比を持っていない限りは。もしそうだとすると、その時間は30Myr以内になる(Klein et al. 2002; Yin et al. 2002)。

PBはT50=725KでZnと同じような揮発性元素だから、レイトべニアがあるとPb-Pb年代測定に影響を与えるはずである。実際、地球の古い長石と方鉛鉱の年代は太陽系の年齢よりも50-160Myr若い(Alberede et al. 1984)。放射性起源のPbの集積が遅れているということは、コンドライトのような238U/204Pbが非常に低い小惑星が、揮発性元素が欠乏している原始地球に衝突したと考えるとよく説明できる。月のマントルの238U/204Pb比は、現在の地球のマントルの200-600倍で、CIコンドライトの1000-10000倍である。これは、地球のPbの99%がレイトべニアで付加されたことを示している。

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